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徒然読書録『蜂蜜パイ』 ~異色な光の作品

ここを読む人たちのだいたいはご存じでしょうが、
私は村上春樹の作品が好きです。
ついつい、真似して書いちゃったくらいには好きです。

ツイッターでネタにされる文体だったり、
彼の書く世界の雰囲気だったり、
わけのわからない比喩表現だったり。

久しぶりに短編集『神の子どもたちはみな踊る』を
読み直して、あらためてそう感じました。
私はこの中の『蜂蜜パイ』という作品が特に好きで。
この作品だけ、彼の書いた中で一風変わっているように思います。







そもそも、この短編集は彼の作品の中でも、
特殊かつ傑作の部類に入ると思います。

この短編集は神戸淡路島大震災を題材としていますが、
舞台はすべて震災一ヶ月後であり、地震そのものは描かれません。
そして、主人公たちは神戸とはまったく違う場所にいて、
震災は遠い遠い背景でしかありません。

しかし、彼らの中に住まう闇や暗い情念は確かに彼らの中にあり、
それは地震とは決して無関係ではない。
全6編のうち、5編はそうした闇と向き合い、暗さと溶けたり、
それを受け入れるようなイメージになっています。
ところが、最後の『蜂蜜パイ』からはそんな印象を受けませんでした。

この物語には4人の登場人物がいます。
主人公の淳平、友人の高槻、高槻の妻(だった)小夜子、
そして高槻と小夜子の娘の沙羅。
淳平は小夜子に惹かれており、同時に高槻も小夜子に惹かれていました。
その関係の結果、高槻は小夜子と結婚し、子どももできました。
「沙羅」の名付け親は淳平です。
淳平は小夜子と一緒になることはできなかったのです。
(私の好きな「冷蔵庫の中のきゅうり」が出るのはこの場面)

しかし、高槻と小夜子は離婚しました。
定期的に淳平を交えて四人で食事をする関係にはとどまるものの、
高槻と小夜子はそれをどうしようもないことだといいます。
そして、高槻は淳平に小夜子と一緒になるように勧めてきます。

これって、相当に切なく、やるせなく、虚しいことだと想うのです。
本文にもありますが、淳平は常に受け身で重大なことが決まっています。
村上春樹作品の主人公らしく、本が好きで、
特定の恋人を持たず、たまにセックスして、一人で静かに暮らすタイプ。
自分の強い意志をもって何かをするタイプではありません。

ここまでで言うと、『ノルウェイの森』だったり、
『スプートニクの恋人』のように、
主人公が最終的に深い孤独と断絶を味わって物語が終わりそうです。
でも、このお話は違います。

最後に淳平と小夜子はつながるのです。(物理的にも……)
そして、「地震おじさん」に怯える沙羅と、
それをなだめるようにして一緒に寝る小夜子を見て、
彼女たちを護ると誓うところで物語は終わります。
さらに、淳平が熊の物語をハッピーエンドで締めようと、そう考えてる。

端的に言うと、村上春樹作品で珍しい終わり方だと想います。
そして、彼が今まで書いてきた積み重ねがあってこそ、
この終わり方が逆に映えます。
他の人が書いてもあんまり見栄えしない感じもする。

主人公が自分で大きな決断をすること、
そして、自らつながりを得ようとすること。
地震という大きな事件を前に、
私たちは時に無力になり、時に孤独を感じることがあっても、
そうしたものを取り戻すことは不可能じゃない。
そんなことすら感じるほど、最終作が光って見えました。

そんなわけで『蜂蜜パイ』、オススメです。
そして、私の『ラスト・ロール』を読むと、
なんか色々と笑えるくらい共通点が見つかるかと思います。
(最後宣伝かよ!)

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プロフィール

蛮天丸

Author:蛮天丸
物書き。
東方プロジェクトの二次創作小説を中心に、
好きなものを好きなように書いています。
最近は秘封がお好き。
秘封処女膜合同の主犯(siroito.web.fc2.com/maidenhead/)だけど、処女じゃないよ!
アイコンは一条さんからお借りしました。

ジャンル

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